12月にもなると、否が応でも「今年もこの季節だねー」となります。それはクリスマスです。
もうクリスマス云々という歳でもないし、実際特に想うところもないけど、個人的には雰囲気自体は寒いの以外嫌いではありません、昔からね。
そのクリスマス時期が近付くとクリスマスソングが巷やテレビで散々掛かります。我が国を代表するクリスマスソングと言えば、「山下達郎のクリスマスイブ」は定番です。いろんな意見があるでしょうが、ランキング作ると、上位は間違いない。
クリスマスという、西洋の文化的・宗教的儀礼イベントを象徴する曲が、日本人が日本語で歌っている曲がこれだけ支持されるのも誇らしいが、奇妙な感じがするといえばします。
ただ、それだけのクオリティーを持った曲だと思うし、それは多くの日本人が思うところだと感じていますけど。
そんな山下達郎さんの代表曲である「クリスマス・イブ」ですが、色々解説してみたいと思います。曲の解説やみなさんも知らない逸話とかお話していこうと思いますので、興味があればお付き合いください。
「山下達郎/クリスマスイブ」とはどんな曲?
「クリスマスイブ」は、山下達郎の1983年に発売されたアルバム「MELODIES」に収録されている曲で、作詞・作曲・編曲、すべて山下達郎さんです。
レコーディングメンバーは、
- Vocal/Backingvocal/Electricguitar/Percussion:山下達郎
- Drums:青山純
- Bass:伊藤広規
- Piano:難波弘之
- Synthesizer:中村哲
もう39年前の曲なんですね。
ちょっと切ない歌詞
歌詞については各々捉え方はあるのでしょうが、切ない歌詞ではあると思います。
12月24日の夕方、それまで降っていた雨が雪に変わる頃。きっと来ないであろう女性を待つ男性の心情を歌ったものですね。
クリスマス色に染まったどこか浮かれている12月24日18時ごろの繁華街、雪も降ってきて雰囲気ある空間です。でも待ち合わせている女性はやってこない。一人きりで待っている男性は半分あきらめているようです。
街の雰囲気と男性の心情のコントラストが印象的ですね。言葉は多くないけど、これだけで十分ですよね。
この歌詞、のちにご紹介するJR東海の例のCMとダブるわけで、CMはハッピーエンドの続きがありますが、この曲はここで終わってます。ちょっと想像を掻き立てられますね。
もともとは竹内まりやに書いた曲
もともとは、奥さんの竹内まりやさんのために作った曲だそうで、それが、まりやさんの当時のディレクターにボツられたんだそうです。
この段階では曲だけだったから、もし、まりやさんの曲としてレコーディングしてたとしたら、クリスマスの曲にはならなかった可能性は高いでしょうね。
で、じゃあしょうがないから自分の曲としてレコーディングしようか、ことになったとか。
発表当時は「地味な曲」
発売当時は、シングルとして切るわけでもなく、アルバム最後に収録された、ご本人曰く「どちらかというと地味な曲」ということでした。
たしかに、当時の達郎さんは、「夏だ!海だ!タツローだ!」と夏のリゾートミュージックの担い手として扱われた面もありましたので、「あの達郎がクリスマスソング?」というところもあったでしょう。実際、この頃は特に世間に支持されるでもなく、ファンの中だけで支持されていた、ほかにもある山下達郎の曲と同じような立ち位置だったそうです。
季節がら、ピクチャーレコードとかにして発売はしていたそうなんですけどね。
もちろん、この頃の山下達郎さんが人気がなかったというわけではなく、1980年の「RIDE ON TIME」の大ヒット以来、メディアには出ないけど、世間の認知度も抜群で、大きな支持は集めていた時期です。
そんな「クリスマスイブ」を取り巻く状況が、発表後から5年経って一変します。
「クリスマスイブ」ブレイクの端緒はJR東海のCM起用
この「クリスマスイブ」、JR東海のCMに起用されたんです。
1988年当時、JR東海は「クリスマス・エクスプレス」というキャンペーンを張っていましたが、ここに採用された曲が、この「山下達郎/クリスマスイブ」でした。
なんでも、古今東西のクリスマス・ソングが300曲ほど挙げられ、そこから選ばれた曲がこの曲だとか。そして、この曲のイメージでCM制作されたとのことで、制作側のかなり強いこだわりがあったのだそうです。
一定の年齢の方なら、このCMの衝撃は覚えておられるでしょう。まさに、曲と映像の相乗効果ということなのでしょうかね、ホント、誰が観ても素敵なCMと感じる、素晴らしいCMです。
このシリーズは何年か続きました。個人的には牧瀬里穂さんの時のが最も印象深いですね。
発売から6年目のナンバー1
世間一般に見つかっちゃったということで、このCMをきっかけに「クリスマスイブ」の認知度は爆発的に上がります。
そして、1989年12月、1983年6月の発表から6年6か月後に、オリコンシングルチャートでナンバー1を記録します。この記録は、発売から1位獲得までの最長記録として、それまでの欧陽菲菲の「ラブ・イズ・オーヴァー」の記録を更新しました(当時)。
そこから今年で、33年です。山下達郎さんのクリスマスイブは、毎年のようにこの時期になるとチャートインしてきます。
ギネスにも認定
2022年冬時点で、37年連続トップ100にチャートインしており、この記録は2016年の時点で30年連続としてギネス認定されています。
クリスマスイブの売り上げ記録は?
累計の売り上げ枚数は、2022年時点で190万枚以上を記録しており、80年代に発売された曲としては最多販売枚数だとか。200万枚超えまでそう時間はかからないでしょうね。
日本のクリスマスソングのスタンダードに
冒頭でお話しした通り、この曲は、日本におけるクリスマスソングのスタンダードになりました。もともとはいちアーティストの一曲にすぎなかったものが、本人の意図の存せぬところでとてつもないことになった好例です。
ご本人もそんなようなことを言っていましたが、それもこれも、この曲がそれだけのポテンシャルを持っていたからこその事象です。実際、ご本人もこの曲の出来は自作曲の中でもトップクラスのものだそうです。
クリスマスイブ曲そのものを解説
では、その「クリスマスイブ」ですが、曲そのものについてスポットを当ててみたいと思います。
この曲がクリスマスソングになった理由とは
先ほども言いましたが、当初はメロディーしかできておらず、クリスマスの曲にしようかとかは決まっていませんでした。では、なぜクリスマスがテーマになったのでしょうか?
この曲、コード進行がクラシックのバロック音楽にありがちなそれでした。初めから意図したものなのか結果的にそうなってしまったのかは定かではありませんが、クラシックのコード進行に沿った曲なのです。
だから、歌詞はクリスマスものにしようということになります。案外安易に決まったんですね。山下達郎さんはこういうことが少なくなく、タイプ的には、伝えたいことがあって歌詞を書くというのは比率的には多くはありません。どちらかというと、このクリスマスイブ的な感じの方が多いようですね。
そこはやはり、「芸術家的」ではなく「職人的」ということなのでしょう。ご本人もアーティストと呼ばれることはあまり好きではないようですし、「アルチザン(職人)」というタイトルのアルバムを出すくらいですし。
で、アレンジですが、ここで、この曲のキモとなるべき2つのキーワードが関係してきます。その2つのキーワードとは…「ひとりアカペラ」と「カノン」です。
キーワード1:ひとりアカペラコーラス
この「ひとりアカペラ」と言い方が正しいのかどうかはわかりませんが、要は、自分の声をいくつも重ねて「音」にしてしまう手法。自分の主声音に自分で音を重ねるコーラスではなく、いくつもの自分の声を重ねてアカペラを構成するのですね。
これは、山下達郎さんが大得意としているところであり、ソロになってから暫くして始めた、彼の代名詞であり、達郎サウンドの大きな特徴でもあります。
この「クリスマスイブ」でも、自分でアレンジしていくつもの自分の声を重ねて多重録音しています。
この曲の場合では間奏前あたりから終わりまで一人アカペラが出てきますが、声はすべて山下達郎さんです。どのくらいの声が重なっているのかわかりませんね(笑)。
クリスマスイブを再現した映像
面白い映像があるので共有させていtただきます。東京のミュージシャンがこのクリスマスイブのレコーディングを再現したものがあります。
レコーディングの資料がふんだんにあるわけではないので、インタビュー記事を参考に耳でコピーして採譜したようですがかなりのクオリティーです。興味があれば。
キーワード2:パッヘルベルのカノン
2つ目のキーワードの「カノン」とは曲名です。パッヘルベルのカノン。バロック音楽の超名曲です。
誰もが聴いたことのあるクラシック音楽ですが、「クリスマスイブ」の間奏に、まんま、このカノンを持ってきてしまったのです。
しかも、「ひとりアカペラ」で。
理由は、先のクリスマスの歌詞にした理由とほぼ同じです。
この「クリスマスイブ」、まんまではありませんが、このパッヘルベルのカノンとコード進行が似ています。日本には「カノン進行」という言い方がありまして、ある種、ヒット曲の法則というものがあるんです。カノン進行って?
当時からカノン進行の法則の話があったかどうかはわかりませんが、達郎さんもカノンに似ているということは当然わかっており、だからこそクリスマスの曲にしたわけで、だからこそ、「じゃあ、間奏もカノンにしちゃおう」ということになったわけですね。
「ひとりアカペラ」は曲全体の印象に大きく寄与しているわけですが、そこに間奏になって「カノン」というキーワードが持ち込まれました。
そして、この間奏は、この曲の最も印象的な部分であり、最大の見せ場です。これがなかったら、この曲の魅力は半減するに違いありません。
The Beatles/In My Lifeの間奏も
カノン繋がりでいえば、ビートルズの名曲「In My Life」の間奏もカノンを題材にしたものです。
ですので、ライブでクリスマスイブを演奏する際には間奏をカノンのSE(サウンドエフェクト)を流すのではなく、キーボードの難波弘之さんが「In My Life」の間奏を拝借して演奏することもあります。「In My Life」はこんな曲。
卓越したプロデュース力&アレンジ力
やはり、ここは、山下達郎さんのプロデュース能力とアレンジ能力に感服するしかありません。
ご本人が当初抱いた「地味な曲」というのは、当時の他の曲と比べてという意味であり、テーマ的に異質な曲という意味だからということなのでしょう。
しかし、実際は、自分が納得できる仕事ができた満足いく仕事だったわけであり、曲自体も他の達郎さんの曲同様、非常に凝った、彼でないとできない仕事だったのだと思います。
まとめ
以上、日本のクリスマスソングのスタンダード「クリスマス・イブ/山下達郎」についてお話させていただきました。
当時は山下達郎さんにしては地味だったのかもしれませんが、今や本当に多くの人に愛されている、そして今後も愛され続けていくであろう曲になりました。
今までは何となく「クリスマスだねー」と漠然と聴いていた方も、この曲のクオリティー、特に、一人多重録音に注力して(ヘッドフォンで聴くといいですよ?)いただけたらと思います。間奏だけでなく曲全編で聴けますので。
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